買わなくてもどうぞ − みんなのトイレ


盛岡市のJR盛岡駅前の商店街を歩くと、街灯に掛かった金属性プレートが次々と目に飛び込んでくる。 花や野菜を描いたガラス絵とトイレのマークを組み合わせ、商店名とともに「どうぞご利用ください」と書かれている。 プレートを掲げた店のトイレは、街の共有財産という位置づけだ。 その店で買い物をしなくても、使用できる。協力店は市内に17店。 この試みは、そば店の店長、小田中由美子さんの呼びかけで2004年に始まり、北上川の水面にちなんで「きらら化粧室」と名づけられている。 小田中さんのそば店では、個室の入り口を車椅子が通れる幅にし、手すりを付けた。 高齢客の多い補聴器店では、「電気は自動で店頭・消灯します」などわかりやすい表示を心がけている。 改修にかかる費用は自前だ。小田中さんがアイデアを得たきっかけは、「トイレを貸して」と飛び込んでくる観光客が後を絶たなかったこと。「公衆トイレの設置も大切だが、自分たちでもできることもあるはず。自由に使えるトイレが多くあるといい」と、他店にも呼びかけた。しかし、始めてみると、地元の人からも感謝された。高齢者や小さな子供は突然尿意を催す。商店のトイレを使えれば、安心して外出できるというのだ。結果として街の活性化につながり、商店同士の団結力も強まった。 トイレの落書き、破損などを懸念する声もあったが、「不思議と1件もない」という。中心市街地の商店街の衰退は、全国に共通する問題だ。品揃えの薄さや駐車場不足などがよく指摘されるが、トイレの未整備も理由の一つと考えられるようになった。 東京都が今年3月、都民約230人に「外出時にトイレがなくて(少なくて)困った場所・施設」を尋ねたところ、商店街が50%(複数回答)で最多だった。デパートなど大型店の快適なトイレに慣れた買い物客は、商店街にも同じような施設を求めているようだ。こうした調査などを受け、東京都福祉のまちづくり推進協議会は7月、商店街がトイレ整備に取り組む必要性を提言した。ただ、個々の商店にとっては、維持管理の費用負担や防犯上の課題もある。九州地方のある都市の商店街では2004年、盛岡市と同じように9店が店のトイレを開放した。しかし、「商品をトイレに持ち込まれる恐れがある」など反対する商店も多く、取り組みは広がっていない。「利用者側のマナーが低い場合があるのも事実」と担当者は語る。 商店街の活性化戦略に詳しいNPO法人「しょうまち」(旧商店街とまちづくり研究会理事長の樋野公宏さんは「トイレを活用した商店街の活性化には、店のトイレの貸し出し、魅力的な公共トイレの設置など様々な方法があり、地域や利用者の特性に応じて選ぶといい。利用者側は、”会計前の商品を持ち込ない”といったルールを守り、”汚したら拭く”など、自分の家で使うときと同様の心がけを持ってほしい」と話す。